Piggydb読み物

Piggydb.jpには、Piggydbの紹介やドキュメントに留まらず、日々更新されるいろいろな読み物があります。以下のようにそれぞれタグでまとめてありますので、フィードで更新情報を追いかけるもよし、つながりを辿って情報の海を探索するもよし、何らかの形であなたの知的生産の参考になれば幸いです。

#Piggydb Blog

Piggydb作者によるブログです。

#The Piggydb Way

ここでは、Piggydbというソフトウェア、あるいはその開発を通して考えていること、実験しようとしていることについて書いていこうと思います。基本的には取り留めのない文章になる可能性が大ですが、最終的には、なぜPiggydbが他のアプリケーションとは一線を画するのか、その考え方の枠組み的なものを提示できればいいなと思っています。

Piggydbとは? → ...

Piggydbは、ブログやTwitterを書くような感じで手軽に情報を入力しつつ、必要に応じて情報同士をつなげたり、重要な情報に「重み付け」を行ったりしながら、知識やアイデアを育てるための、柔軟性の高いメモ帳のようなアプリケーションです。
基本的な構成要素は、「フラグメント」と呼ばれる情報の単位と、そのフラグメント同士をつなげる「つながり」の2つだけです。もう一つ、情報を分類するための「タグ」がありますが、これもPiggydbではフラグメントの一種として扱われます(タグとして利用されるフラグメントを「タグフラグメント」と呼びます)。
機能的な説明は以上で済んでしまう程にシンプルなものなのですが、これだけだと、それが何の役に立つのか、どのような可能性を秘めているのか、なかなか分かりづらいと思います。将棋やチェスのルールをいくら説明しても、その奥深さを伝えるのは難しいように、ここで簡潔に説明するのはなかなか難しいです。そこで、時間をかけていろいろな実例を示したり、周辺的なトピックを紹介しながら、少しでもその奥深さを伝えることができればと思い、この「#The Piggydb Way」という連載を始めることにしました。

なぜPiggydbなのか? → ...

知的生産という行為が日に日に重要になっていく昨今、そのための道具を日常的に利用している人はとても多いと思います。意識的にEvernoteのようなサービスを使わなくても、Gmailを利用すれば日常的に入ってくる情報が勝手にデータベース化されますし、TwitterやFacebook、ブログなどを利用する過程でも、知らず知らずのうちに、情報を摂取し、加工し、発信するというサイクルの中で知的生産の領域に足を踏み入れることになります。
こういったサイクルの中で、多くの人が習熟するのは「道具の使い方」です。アプリケーションやWebサービスのような道具の使い方はもちろんのこと、そこで流通する「言葉」も、ある種の道具です。あるサービスについて詳しかったり、流行の言葉や決まり文句を適切に使いこなすというのは、ある意味、分かりやすい物差しです。その延長には「専門家」と呼ばれる領域もあります。
しかし、これからの世界で重要になっていくのは、道具の使い方に詳しくなることではなく、いかに新しい道具を作るか、ということではないか、そのような考えがPiggydbの背後にはあります。
特に日本においては、与えられた道具をうまく使いこなすこと、道具自体を改良することについては、それなりの実績がありますが、全く新しい道具を生み出すということについては、苦手としているように感じます。
新しい道具を生み出す原動力は、人間に自然に備わっている「類似性を発見する力」です。本来は無関係だと思われていた事象の間に類似性を発見し、それを新しいコンセプトとして提示する。その類似性に新規性があり、かつ射程が広ければ広いほど、そのコンセプトには価値があります。そういったコンセプトの発見を補助するためのツール、それがPiggydbです。

コンセプト指向発想法 → ...

Piggydbで提案している知的生産の方法を暫定的に「コンセプト指向発想法」と呼ぶことにします。
コンセプト指向発想法とは、コンセプトを中心に知識を組み立てようという考え方です。ここで言うコンセプトとは、辞書やWikipediaの項目に相当するモノやコトのことです。つまりコンセプト指向では、自分(あるいはチーム)なりの辞書を構築してくような感じで集めた情報を整理していきます。
コンセプト指向のメリットは大きく分けて二つあります。一つは、情報量が増えて知識が複雑になっても、自分にとって重要なコンセプトとその関係が自然に浮き上がってくるため、従来の方法よりも「1) 見通しの良い知識ベースを構築できる」ということ。もう一つは、既存のコンセプトによる情報の整理(カテゴリー)よりも、新しいコンセプトの発想・研究に力点を置くことによって「2) 情報管理がよりクリエイティブなものに」なるということです。
このフラグメントには「コンセプト指向発想法」で重要になってくるコンセプトを随時ぶら下げていきます。この考え方自体もコンセプト指向で発展させようという試みです。

#随想のかけら

以下の引用のような経緯から生まれ、使わせて頂くこととなったタグです。
具体的にはとにかく「イメージを文章で表現する事」を目指した知的生産の一手法を実践したフラグメントに付けるタグとなります。過去の経験を基にしたイメージ、ある言葉や文章、イラストなどを見たときにふっと思い浮かんだイメージ、空想や仮想現実のイメージ等が入り乱れる文章となります。ですので、これでタギングされたフラグメントは基本的には全てフィクションの扱いになります。

 まさにその瞬間、彼の脳裏にハッとイメージが浮かんだ。そのイメージこそ、今彼の脳内宇宙を駆けめぐっている疑問への答えそのものである。と、彼は理屈抜きに確信していた。彼はそのイメージを脳内宇宙で何度も反復し、暗唱し、そのイメージを確かな言葉、キーワードとしてから、おもむろに明かりをともした。のっそりと体を起こすと、枕元から愛用のメモ帳を取りだしお気に入りのペンでそのイメージのキーワードを書き記した。
magicianさん、これ面白いです。このフィクション形式の話を展開させたらどうなるのか読んでみたいと思っちゃいました。
magicianさんの止め処ない思考の軌跡を表現するにはこういった形式が最も適している(読みやすい)ような気がします。このような時系列に展開して行く随想的な話が主系列としてまずあって、その傍流として、そこで発見された様々なアイデアが配置されるみたいな。
もし#801の話を展開して頂けるのでしたら、専用のタグを使って頂いてもOKですよ。「#知的生産物語」みたいな。楽しみにしております (^_^)/

『ドアコン(仮称)』(ID801番) → ...

 まさにその瞬間、彼の脳裏にハッとイメージが浮かんだ。そのイメージこそ、今彼の脳内宇宙を駆けめぐっている疑問への答えそのものである。と、彼は理屈抜きに確信していた。彼はそのイメージを脳内宇宙で何度も反復し、暗唱し、そのイメージを確かな言葉、キーワードとしてから、おもむろに明かりをともした。のっそりと体を起こすと、枕元から愛用のメモ帳を取りだしお気に入りのペンでそのイメージのキーワードを書き記した。
「――――」と。
 そこで、彼はふと思いとどまった。このイメージは本当にキーワード、問題を解く鍵そのものなのだろうか。むしろ、ドア、入り口のようなものではないか。そう思い立った瞬間彼の脳内宇宙に知的快感が波となって押し寄せた。新たなイメージ達が、次から次へと波に乗って彼の脳内宇宙に押し寄せてきた。
 ドア。入り口。鍵。ゴール。ドアは1つか。いや複数だ。ドアの集合体。コンプレックス。ドアコンプレックス。シネコン。シネマコンプレックス。ドアコン。ドアコン、これこそが新しいキーワードだ。いや、またキーワード? それじゃあ矛盾する。座標。ID。固有識別番号。無感情。先入観の排除。キーワードは先入観を招き、想像力を阻害する。本当にこのイメージはドアコン、だけなのか。驚異の部屋。(博物学)。新鮮な素材。たくさんの様々な種類の新鮮な素材。市場。食材の市場。青空市場。うん、やっぱり多数のイメージがある。座標。そうこのドアの座標だけがあればいい。その座標からたくさんの四次元ドアが広がっている。! タグフラグメント。名前のないタグ。フラグメント番号を機械的にIDとして割り振れば。やっぱりPiggydbはスゲェ。スゲェよ。タグフラグメント。名前のない括り。タグフラグメント。・座標ID。・ドアコンプレックス。・キーワードは付けない。・ゴールではなくこれが、入り口。・先入観を排除し、想像力の広がりを。・食材の市場。タグフラグメント。・座標ID。・ドアコンプレックス。・キーワードは付けない。・ゴールではなくこれが、入り口。・先入観を排除し、想像力の広がりを。・食材の市場。タグフラグメント。……。
 ひとしきりイメージの波が落ち着いた後、彼はまたそのイメージを思い返した。
 一度、二度。
 最初からもう一度。
 どんな風に連想したのか、ゆっくりと思い出した。
 ふーっと深呼吸を挟む。
 そして、もう一度イメージを反芻する。
「……よし、もう大丈夫だ」
 彼は、自分の脳内宇宙が、最低限の落ち着きを得て、仮組みではあるがイメージを構造的に記憶できたことに安堵感を覚えてペンを取った。その時、彼の脳内宇宙に知的快感の余韻はもう無かった。彼の脳内宇宙では大迫力のビッグウェーブだったが、現実世界の紙にインクを引けば、それがとてもちっぽけなものに見えた。それが文字だろうが、絵だろうが、図解だろうが、皆同じ事だ。A6のメモ帳の見開き1ページ。客観的に見てまさに手のひらサイズだ。
 客観的。
 そう、彼はもう自分のアイデアを客観的にみれるまでに落ち着いていた。先ほどまでの彼は、自分が天才だと錯覚していたが、今はもう正常だ。彼は自分が凡人であることをよく知っている。あいにく、彼は酒を飲んだことがなかったが、『酔いが覚める』とはまさにこういう気分を指すのだろう。
 だが、彼は知ってもいた。複雑怪奇で入り組んだアイデアの方がいかにもかっこよさそうだが、現実に役に立つのは、短く小さく圧縮された情報であること。シンプルで分かりやすい組み方をされたアイデアであること。
 そして、分かっていた。それでもそのアイデアは現実の世界において、とてもちっぽけなものであるとも。現実には、同じように圧縮され、シンプルに組み立てられた情報がたくさん集まって、本になり、辞書になっていることを。だから彼は謙虚に素直に、そしてポジティブに思った。
「良い道に向かって、一歩前に進めた。今日は良い日だなぁ」

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作者注。

この描写は長いです。後半部分は1フラグメントに1コンテキスト、という原則から見たら蛇足。後半部分があることで、複数のコンテキストが存在してしまっている。ただ、ストーリーの余韻としてはあっても良いかなと思い、残しました。

また、後半部分のコンテキストも知的生産に関する素敵なコンテキストである気がしていますし、また前半部分のコンテキストとのつながりも大事に記録しておきたいとも感じています。

WWW大航海時代への回顧録 → ...

――CIAの陰謀だ。
 【◯◯◯◯】、クリック。「◯◯◯◯ - Wikipedia」、「◯◯◯◯ のニュース検索結果」、「◯◯◯◯オフィシャルサイト」、「◯◯◯◯ - YouTube」、「Amazon.co.jp: ◯◯◯◯」・・・。
 Googleの扉を開けると、ショッピングモールが広がっていた。皆きちんと定まった定型のユニフォームを着ている。自慢げに張る胸には大手のスポンサー広告。その背にはたくさんの客達。
 お金をもらってプロとしての仕事をするユニフォームに、たまに情熱的なアマチュアが同じようなユニフォームを着て混じっているのが現代らしいといえば、らしいのかもしれない。
 もう少し進んでみる。
 「◯◯◯◯-2chまとめサイト」「◯◯◯◯ - NAVER まとめ」「◯◯◯◯ - まとめアンテナ」。
 セレクトショップがちらほらと並び始てきた。似たような商品を扱うセレクトショップが軒を並べて争っている。◯◯◯◯激戦区。「どこよりも早い◯◯◯◯」、「幅広い◯◯◯◯を」、「こだわりの◯◯◯◯」。四角い顔をしたロボットとモニターの前の批評者と現場のプレイヤーが並んで店を出す。
 それなのに。
 商品の仕入れ先は。
 同じ産地。
 同じブランド。
 同じ会社。
 見回せば、その商品がそこかしこに歩き回っている。「Facebook」、「Twitter」、「Blog」、「2ch」。皆そのどれかのTシャツを来ている。足下は男女問わずジーンズだ。元気よく各店舗を買い回るヤツもいれば、突然露天商を始めるヤツもいる。そして、皆同じTシャツに同じジーンズ、いくつかのパターンのどれか。
 同じTシャツ。
 同じジーンズ。
 
 世界が静かに迫ってくる。音を立てずにスーッと壁が押し寄せてくる。
 ――世界は確実に、
 狭くなった。 狭くなり続けている。

 そこから抜け出すには、定型の作法を覚ねば。皆と同じTシャツを買い、ちょっとした着こなしの差で意気がってみせる。2着、3着とTシャツを増やし、ジーンズを買いそろえ、流行のファッションを追う。
 手作りの浴衣。地元の学校の制服。古着のつぎはぎ。輸入ファッション。部活のユニフォーム。ダサいの格好いいの、キレイなの。入り乱れていたWWWの大航海時代は、もう終わってしまったのか。煌めく個人サイトが、テキストだけを振り回し、オリジナリティ剥き出しで、暴れ回っていた海はどこへ消えたのか。重い蓋の宝箱に隠されたたった一枚の画像に狂喜乱舞したのは幻だったのか。
 「◯◯◯◯はX円です」
 「◯◯◯◯、今だけ半額」
 /
 「このウェブサービスは毎月X円でご利用頂けます」
 「このサイトは以下のスポンサー広告によって運営されています」
 自由の潮風が薫る大海原は消えた。
 代わりに漂うは金、金、金。
 ショッピングモールにコインを落せば、背後のビルディングで札束が舞う。

「やあ、先輩」
 派手なビビットのシャツとハーフパンツ。そこから健康的な手足を覗かせて。耳から伸びるイヤフォーンの先にはiPhone。「当人の家族、友達しか見に来ないアマチュアの時代がそんなに懐かしいですか? たくさんのお客さんに見られて、プロがファンタジーを魅せる、それは素晴らしい事じゃないですか?」
 日本リーグからJリーグ、か。
「確かに今みんなから注目されたかったら、プロフェッショナルな腕を磨くしかないよな、観客の数が違うんだからさ。そう、キミの言うとおりさ」
 そう時代は変わった。
「そうですよ、そもそも直ぐにプロの技が見られるのに、なんでアマチュアを探す必要があるんですか?」
 皆はそれを進化と呼ぶ。ならば。それならば。
「下手で荒削りで、でも世界でコイツしかいない、そんなヤツが見たい日もあるのさ」
 進化と言えるのは過去から見た今のことだ。進化し続けたいなら、今を疑い未来を探さなくては。そう、それでも地球は回るのだから。

『6月14日の紅茶の味』 → ...

 マリナの本職は女優だ。オアシスの街であるレインボータウンは、交通の要所である。その周辺の砂漠の民は例え、直接オアシスの水を味わうことが出来なくても、たいていは間接的にオアシスの恩恵を受けている。マリナの場合は、オアシスからオアシスへ行商の旅を続けるキャラバンのお偉いさんを楽しませる舞台を演じることである。
 金銭の契約は無いが、衣装は貸してもらえるし、何より舞台上での飲み食いは全て本物だ。がっつきたくなるのを我慢して優雅な姫君を演じきる事ができれば、また次の舞台でも女優として呼んでもらえる。
 こんな機会でもなければ、結婚式でも着ることが出来ないようなドレスを身にまとい、当たり前のように水が添えられた食事を楽しみ、食後の紅茶を嗜む。まさに夢のような一時。

 【6月14日 今日の演目はまた"嘘と姫と魔法の絨毯"だった。マツリカ姫を演じられるのは、本当に幸せだと思う。でも、やっぱり、目の前におかわりだってしていい水があるのに、それを無視して、テーブルマナーで一杯の頭で羊のステーキを切り分けるのはツライなぁ。でも、今日は良く水を2杯で我慢できたね、アタシ偉いぞ。でも、冒頭のアラベルとの出会いはちょっと反省。演じるのは何度目でも、作中では初対面なんだから、もっと新鮮な驚きを表現しなくちゃ。……。反省終わり。それにしても今日の紅茶は美味しかったなぁ。『6月14日の紅茶の味』は本当にステキだったなぁ】

 日記を書く手を一休みして、マリナは繰り返しの回想にふけった。香り、色、茶葉、味、喉ごし、その時の気持ち等々、じっくりと思い出していく。そしてページをめくると、『6月14日の紅茶の味』と題して、ペンを動かしていく。

【『6月14日の紅茶の味』
 ー「今宵の茶葉はアッサムかしら? 芳醇な風味がミルクに良く合っているわ」
 ー甘い芳醇な香気は、香った者の心をほんのりと幸せにしてくれた。
 ー温かな人肌のような色が、白い陶器のカップに浮かぶ様は、心をおだやかにしてくれた。
 ーミルクを入れても、紅茶の旨みがちゃんと残っていた。ミルクの甘みと紅茶の旨みが恋人同士のように解けあって一対となって、舌の上を通る。飲み応えのある濃厚な味は、でも喉ごしはさわやか。飲み終えた後も口の中にじんわりと、ミルクティーの幸せが漂っていた。
 ー今日の紅茶の入れ方はロイヤルミルクティーと呼ばれる入れ方らしい。ロイヤル。まさに姫君が飲むに相応しい優雅さだったなぁ。
 ーーロイヤル、王族が飲むからじゃなくて、味そのものが優雅。だいたい、ミルクを入れても茶葉が負けないって言うのは凄いことだよね。高価なドレスを着ても、本人が負けないオーラをもっているお姫様みたいっていうことだよね。

 →『6月14日の紅茶の味』:『純白のドレスで着飾ったアッサム姫の温かな幸せを飲んだあなたにもお裾分け』】

『6月14日に生まれた、止まらないこの胸のドキドキ』 → ...

「それでは、明日の朝、改めて迎えに参ります」ジャスティー王子の挨拶に返答の言葉をついに返せないまま、マリナはランプを見つめ続ける。
 ……。
 ……。……。
 ……。……。……。
 砂漠の冷たい夜風がマリナの頬を撫でた。マリナは無造作にランプに灯をともすと、日記帳を開いた。

【6月14日 アッサム国のお姫様になった。この砂漠の民の私が。なのに何故だろうか凄く陰鬱な、もの悲しい気分。それなのに、胸のどきどきが止まらないよ。……。チャンスを逃したくなかった? 違う気がする。ただ、ジャスティーを獲られたくなかった。他のダレにもナニモノにも。そんな気がする。そう、哀しかったの。だって、ジャスティーが私に「惚れてはおりません」って言った。そう言えば、一言も「好き」だとか「愛している」だとか言ってはいなかったな。ただひたすらに「姫になって下さい」ってばかりでさ。それなのに、どうして私は結婚を受けたんだろう。無意識に贅沢な暮らしに惹かれたのかな。チャンスを逃がすまいとしたのかな。それともジャスティーとの接点を失いたくなかったのかな。例え形ばかりのお姫様だとしても。……。どうしよう、よく分からなくなってきた。自分の気持ちが分からないよ。誰か助けてよ。……。……。

 そうだね、ギーピ君。キミがいたね。さて、Piggydb式日記帳ver6.12パーソナルネーム「ギーピ」君? どうやって私を助けてくれるの? ……。そうだね、『ドアコン』作ってみようか。きっと、明日からは周りに流される日々がどうしたって続くのだろうから。せめて、自分の気持ちぐらい、大事に育てて上げたいものね。】

【6月14日に生まれた、止まらないこの胸のドキドキ 
ーお姫様になれることへの期待感?
ーーお金持ちの生活への憧れ? 
ーーーチャンスの神様の前髪をちゃんとつかめた自分への興奮?
ーー舞台で演じてきたプリンセス・マツリカが現実になる喜び?
ーーー苦労ばかりの砂漠の民の生活から解放されることの達成感?
ーやっぱりジャスティー?
ーー私、もしかしてジャスティーのこと、もう好きになっちゃったの?
ーージャスティー王子の横でドレスを着るプリンセス・マリナ……ステキかも。
ーじゃあ、何故こんなに哀しいの?
ーージャスティーが私に「惚れてはおりません」って言った。
ーーーそもそも、「好き」だとか「愛している」とか一言も言ってくれなかった。
ーーーーただ、私を「お姫様」として便利に使いたいだけなんだ。
ーーーーーそんなの、ヤダよ、寂しいよ。
ーーーーーーでも、それでもジャスティーのそばに居たいよ。離れたくないよ。
ーでも、ジャスティーのこと、本当に好きなの? 他の王子様でもやっぱりときめいちゃうんじゃないの? 私?
ーーそんなの、分かんないけど。でも、逆に、王子じゃなくても、ジャスティーのこと好きなの?
ーーー真剣に私にプロポーズする彼、格好良かったなぁ。
ーーー無邪気に笑う笑顔が、とっても可愛かったなぁ。
ーーーなんだろう? 出会ったばかり、ほんのつかの間一緒にいたその時間がとっても温かで幸せだった。
ーーーーまるであのアッサムのロイヤルミルクティーのように
ーーーーー「「純白のドレスで着飾ったアッサム姫の温かな幸せを飲んだあなたにもお裾分け」」
ーーーでも、ジャスティー私に寝ていた私にいきなりキスしたんだよ、ほっぺとはいえ。
ーーーージャスティーはエッチだ。
ーーーーでも、そのキス、されて全然イヤじゃなかった気がする……。
ーーーーーもしかして、私、あの時から……。
ーーーーーーイヤイヤイヤ、私はホッペにチューの一発ぐらいで落ちる安い女だったのか?!
ーとにかく、今は混乱しているんだから。落ち着こう。
ーー今はとにかく決めつけないこと。玉の輿への興奮でも、お姫様への憧れでも、……ジャスティーへの恋心でも、それのどれでもないのかもしれない。大事に、大事に、育てていこう。この『6月14日に生まれた、止まらないこの胸のドキドキ』を。】

【6月15日 珍しく夜明け前に目が覚めた。ほとんど寝付けなかったような気がする。……まだ胸のドキドキが止まらないよ。】

【『6月14日に生まれた、止まらないこの胸のドキドキ』
ー女優として、自分の演技が認められたことの喜び?
ーー冷静に考えてみたら、スカウトされているようなものだよね、女優として。それって凄いことじゃん!
ードアから去っていくジャスティーの背中が忘れられない。
ーーやっぱりジャスティーのこと、好きになっちゃったのかも。
ーーー思い返したら、腹が立ってきた。ジャスティー王子様? 乙女の気持ちをなんだと思ってるの?!
ーそうか、このドキドキは礼儀知らずなジャスティー王子様への乙女の怒りなのかもしれない!?
ーー大体、何よ! 「お好みの執事の一人も差し上げる覚悟です」って! 端から仮面夫婦する気満々?!
ーーっていうか、私、どんだけ安い女だと思われてるわけ?! 本当にムカついてきた!
ーー……もしも、私に執事を押しつける代わりに、自分はメイドに手を出す気だったら……。
ーーー絶対に許さないんだからね! アッサム国王子、ジャスティー!】