現代の日本人社会は、明らかにローコンテクストだと思います。個人個人が多種多様な経歴で育ち、多種多様な価値観、ライフスタイルを持つ。グローバル化の流れ。
国際化という文脈なども踏まえると表面的にはそのように見えることもありますが、実態は全く違うと意見もあり、私もそのように考えています。社会心理学だったと思うのですが、社会の多様性が増大し選択肢が多くなりすぎると、選択のコストが大きくなり、結果的に安直な選択肢に飛びつくようになる、という話があります。それで社会は同じ価値観の人たちだけが集まる島宇宙に分断されると。現実的には、国全体で大きな物語を共有していた時代よりもハイコンテクストな社会になっています。
というわけで、今の日本にとって大きな問題の一つは、ローコンテクストな社会に対して通用する言葉を持たないことではないかと思うのです。あるいはその想像力と言いますか。
WWW大航海時代への回顧録
――CIAの陰謀だ。 【◯◯◯◯】、クリック。「◯◯◯◯ - Wikipedia」、「◯◯◯◯ のニュース検索結果」、「◯◯◯◯オフィシャルサイト」、「◯◯◯◯ - YouTube」、「Amazon.co.jp: ◯◯◯◯」・・・。 Googleの扉を開けると、ショッピングモールが広がっていた。皆きちんと定まった定型のユニフォームを着ている。自慢げに張る胸には大手のスポンサー広告。その背にはたくさんの客達。 お金をもらってプロとしての仕事をするユニフォームに、たまに情熱的なアマチュアが同じようなユニフォームを着て混じっているのが現代らしいといえば、らしいのかもしれない。 もう少し進んでみる。 「◯◯◯◯-2chまとめサイト」「◯◯◯◯ - NAVER まとめ」「◯◯◯◯ - まとめアンテナ」。 セレクトショップがちらほらと並び始てきた。似たような商品を扱うセレクトショップが軒を並べて争っている。◯◯◯◯激戦区。「どこよりも早い◯◯◯◯」、「幅広い◯◯◯◯を」、「こだわりの◯◯◯◯」。四角い顔をしたロボットとモニターの前の批評者と現場のプレイヤーが並んで店を出す。 それなのに。 商品の仕入れ先は。 同じ産地。 同じブランド。 同じ会社。 見回せば、その商品がそこかしこに歩き回っている。「Facebook」、「Twitter」、「Blog」、「2ch」。皆そのどれかのTシャツを来ている。足下は男女問わずジーンズだ。元気よく各店舗を買い回るヤツもいれば、突然露天商を始めるヤツもいる。そして、皆同じTシャツに同じジーンズ、いくつかのパターンのどれか。 同じTシャツ。 同じジーンズ。 世界が静かに迫ってくる。音を立てずにスーッと壁が押し寄せてくる。 ――世界は確実に、 狭くなった。 狭くなり続けている。 そこから抜け出すには、定型の作法を覚ねば。皆と同じTシャツを買い、ちょっとした着こなしの差で意気がってみせる。2着、3着とTシャツを増やし、ジーンズを買いそろえ、流行のファッションを追う。 手作りの浴衣。地元の学校の制服。古着のつぎはぎ。輸入ファッション。部活のユニフォーム。ダサいの格好いいの、キレイなの。入り乱れていたWWWの大航海時代は、もう終わってしまったのか。煌めく個人サイトが、テキストだけを振り回し、オリジナリティ剥き出しで、暴れ回っていた海はどこへ消えたのか。重い蓋の宝箱に隠されたたった一枚の画像に狂喜乱舞したのは幻だったのか。 「◯◯◯◯はX円です」 「◯◯◯◯、今だけ半額」 / 「このウェブサービスは毎月X円でご利用頂けます」 「このサイトは以下のスポンサー広告によって運営されています」 自由の潮風が薫る大海原は消えた。 代わりに漂うは金、金、金。 ショッピングモールにコインを落せば、背後のビルディングで札束が舞う。 「やあ、先輩」 派手なビビットのシャツとハーフパンツ。そこから健康的な手足を覗かせて。耳から伸びるイヤフォーンの先にはiPhone。「当人の家族、友達しか見に来ないアマチュアの時代がそんなに懐かしいですか? たくさんのお客さんに見られて、プロがファンタジーを魅せる、それは素晴らしい事じゃないですか?」 日本リーグからJリーグ、か。 「確かに今みんなから注目されたかったら、プロフェッショナルな腕を磨くしかないよな、観客の数が違うんだからさ。そう、キミの言うとおりさ」 そう時代は変わった。 「そうですよ、そもそも直ぐにプロの技が見られるのに、なんでアマチュアを探す必要があるんですか?」 皆はそれを進化と呼ぶ。ならば。それならば。 「下手で荒削りで、でも世界でコイツしかいない、そんなヤツが見たい日もあるのさ」 進化と言えるのは過去から見た今のことだ。進化し続けたいなら、今を疑い未来を探さなくては。そう、それでも地球は回るのだから。
#843を読んだときに私の頭に浮かんだイメージを文章で表現した
#860の『随想のかけら』、「WWWの大航海時代への回顧録」は#843を読んだときに私の頭に浮かんだイメージを文章で表現したものです。論理的な関係付けの出来るレスポンスでは無いことをご理解頂ければ幸いです。
以下のサイトでも、同内容のものをタイトル画像付きでアップしていますので、良かったら覗いてみて下さい。
- WWW大航海時代 への回顧録 | davinci note
- 「WWW大航海時代への回顧録」/「magpiv」の小説 [pixiv]